府中家具　バンザイ！

拝啓　子供の頃、秋になると毎日のようにお世話様になっておりましたが、その後如何お過ごしでございましょうか。無沙汰の限りを尽くし誠に申し訳なく、深くお詫びを申し上げます。近頃皆様のお姿をトンとお見受けしなくなり、どうしていらっしゃるのか、お元気なら良いがと案じております。

　柿さんにはたまにお会いしますね。小鉢の中にさりげなく登場し、小さな声で「やっ、元気かい？」とお声を掛けて頂くと、「はい、お蔭様で」とやっぱり囁くように返事をしてしまいます。あっそうそう、この間従兄の干し柿さんにお会いしましたら、あなたに会うことがあったらくれぐれも宜しくとの伝言でございました。「従兄とは言え中々会う機会がないが、年末かお正月にはスーパーで再会出来るのを楽しみにしているから」ともおっしゃっていましたよ。えっ干し柿さんですか？ええそりゃあもう顔色も艶々して、とてもお元気そうでしたよ。人生の甘いも渋いも噛み分けたお二人の再会、楽しみですねえ。

　栗さん、この頃ホントお会いしませんねえ。以前は栗ご飯などでちょくちょくお会いしておりましたが、今ではたまに出張した時、キヨスクで親戚の甘栗さんのお姿は拝見しております。ですけど何ですか、あちらは中国の天津のご出身だそうで。私はやっぱり慣れ親しんだ柴栗さん、風呂焚きしながら焼いて食べる香ばしさ、油断しているとパシッと弾ける緊張感、いや～懐かしいです。コタツで食べる勝ち栗の味、あれも美味しかったなあ。

　さてアケビさん、伺うと今は高級料亭などで優雅にお暮らしとの事でございますが、万々のご出世、誠におめでとうございます。昔の貴方を存じておりますので、料亭でお暮らしとは中々信じられませんが、きっとこう言う顛末だったのだろうと推測しております。

　子供の頃、野山を駆け巡って遊んでいた洟垂れ君が年を経て立派に成功し、一角の人物と言われ料亭などにも足を運ぶようになる。「ああ、俺も遂にここまでの人間に成れたか」と杯を乾し感慨に耽るが、山海の珍味もその内に飽き、「そう言えば子供の頃、アケビなんてもの食べたよなあ」と思い出す。

　そこで忙しくポンポンと両手を叩き、「オイ女将、アケビはないかアケビは」と突然叫ぶ。そこで女将さんは仕入先に電話して、「直ぐにアケビを用意して頂戴！」と金切り声。言われた八百屋さんだって困っただろうと思うが、そこはそれ、お得意様のために何とか用意して無事納品。しかし持ち込まれた板前さんも困る、だってアケビなんて料理したことないんだから。

　アケビなんて山で食べてこその美味、どう料理したものかと頭を結わえて三日三晩、遂に蒸して合わせ味噌を付け、魯山人の器に盛る「アケビ蒸し焼き　合わせ味噌味」を考案。勿論但し書きには、「器は魯山人作です」とさりげなく書き加える。そして「当店の名物です」と恭しく仲居さんが並べるアケビ料理、目を細める男、胸を撫で下ろす板長、「値段はそうさねえ、二万円も貰っとこうか。何せ器が魯山人だもの」と満足げな女将･････。どうです、こんな具合じゃなかったんですか？

　閑話休題、皆様それぞれの分野でご活躍の由、大慶に存じます。また時節柄、ご自愛の程お祈り申し上げます。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　敬具
ハァ　せっかく馴染んだ皆様と
しばらくお別れせにゃならぬ
いつまたどこで会えるやら
それともこのまま会えぬやら
思えば涙が　パラーリ　パラリと
（ハァー　ドスコイ　ドスコイ）




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