府中家具　バンザイ！

　先日、一月振りに友人Tが入所する施設に彼を訪ねました。開口一番、「あの菓子美味かったわあ、何処で買ったん？」と申します。それは先般の上京時に羽田空港からTに送ったお菓子の事ですが、送った本人が何を送ったのかを覚えていない、「そりゃあ良かったのお」と答えるばかりでございました。他愛無い土産に目を輝かせるTを見ておりましたら、「今度からは何処でどんな理由で、そしてどんな販売員さんから買って送ったのかをキチンと説明してやらなくちゃ」と反省致しました。人様から土産を貰っても余り感動しない昨今、しかしTにとってそれは日常生活の中で稀な出来事なのだと痛感した次第です。

　さて11月末には杖を購入すると張り切ってリハビリに取り組んでいたTですが、お医者さんから「まだ早い」と許可して頂けなかったとの事。本人もそれは納得している様でして、歩行器や手すりを利用して歩く時は問題無いのですが、いざ補助具無しで立つと「直ぐに転びそうな気がしてなあ、足が竦んで前に出んのよ」と申します。栄養失調による小脳の疾患が自助具無しで歩く事への恐怖心を彼に植え付けたようでして、体が動く前に脳が拒否してしまうのだろうと感じました。

　しかしTは頑張っています。9月から付け始めたリハビリノートを目にしますと、ほとんど毎日のようにお医者さんから指示されたリハビリを続けておりました。偶に怠け心が生じて休むと、「えらいもんだで、次の日は中々足が動かんもん。だけんなあ、出来るだけ毎日せんとイケンのだわ」と申します。しかし一方、調子が良いからと言って指示された量以上のリハビリをするのは却って体には良くない様でして、実際にそういう患者さんを知っているTは「その人からも余分なリハビリは厳禁だと言われとるんよ」との事。成程昔の人の言うことに間違い無し、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」とはこの事だと頷きました。

　さて時間になりましたので何時もの様に事務所の方に挨拶をして帰ろうとし、あることを思い出してTにもう一言。

「忘れとったわ、年末には仏さんに餅を持ってくるけんな」
「いいよいいよ、お前も忙しいけんなあ」
「お前ねえ、年取りに餅がないと仏さんが気の毒じゃろ」
「本当にいいって、お前は仕事を頑張ってごせや」
「だけどなあ、普通は仏壇さんに飾るだろうが」
「イヤ、本当にいいって」

　果てしなく続くと思われた論争も職員さんの「Tさん、せっかくだから頂いたらね」とのお言葉で決着、Tの「済まんなあ」の声を背中に施設をあとにしました。思い起こせば昨年の今頃はTの部屋に仏壇さんを入れる準備をし、僧侶のKと写真館経営のIの手助けで年末には無事仏壇さんを入れることが出来ました。あれから一年、光陰矢の如しとはこの事ですねえ。




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