府中家具　バンザイ！

　7月の末に友人Tが入所する施設に彼を訪ねました。持参した造花を仏壇さんに飾り、二人で暫く話してから帰ろうとする私に向かい遠慮勝ちにTがこう言いました。「8月はお前も忙しいだろうから今度来てくれるのは9月で良いよ。それより入所してから毎月来てくれるのに、お前には何も返せんでご免よ」。この「何も返せない」はTが常々口にしたり便りに書いて来たりする言葉でして、「お金が無いばっかりにお礼をすることも出来ない」、そういう意味でTは使っています。

　そして9月も最終日となった昨日、配達の合間に時間が取れましたので1時間ほどでしたがTを訪ねました。売出しの準備やその開催期間、そして買って頂いた商品の配達等で忙しく、9月もひょっとしたら会いに行ってやれないんじゃないかと心配しておりましたが全く幸いでございました。手土産に定番のインスタントコーヒーとカンロ飴、そしてこれも飴玉ですがTの好物の「男梅」を手にして11頃に出掛けました。

　事務所で顔見知りになった職員さんに挨拶してからTの部屋に行きましたが、訪ねて良かったと心底思いました。ドアを開けたTは開口一番、「先週も先々週もお前が定休日の水曜日に来てくれんから、今月はもう会えんのかなあと思っとったよ。仕事が忙しいのに本当にご免よ」と嬉しそうに申します。「そうか、こいつは水曜日の度にワシが来るかもしれないと待っとったんか、済まん事をしたなあ」、申し訳ない気持ちと共に何か胸にジーンと来るものがございました。広い世の中でTに会いに来るのは限られた友人だけ、そして一番近くに住むのが自分なのだと改めて痛感した次第です。

　部屋に入り並んでベッドに腰掛けますと、「これ」とTが一冊の大学ノートを手渡します。見ると表紙に「リハビリノート」の文字、そしてページには「廊下往復3回」とか「片足立ち5回」とかが書かれ、右隅には担当のリハビリ医の先生の一言コメントが赤いボールペンで記入されていました。聞くと9月の中旬からその日にしたリハビリ内容をノートに記入し、それを励みにして杖歩行を目指すのだと力強い宣誓です。

　その記帳をして頑張ろうとするTの姿勢にも感心しましたが、Tが綴った文字に驚かされました。本人もそのことを言って欲しい素振りでしたので「お前随分と字がしっかりして来たじゃないか、こりゃあ相当なもんだよ」と言ってやりますと、「そうだろ、自分でもそう思うんだよなあ。手紙もこの一年で400通は書いたからなあ、これもリハビリの一環だよ」と申します。

「400通？それって一日に一通以上ってことだがな」
「うん、書く時は一日に4通から5通は書くけんな」
「そげかあ、でも本当に字が上手になったなあ。前は震えるような字だったのに、お前、頑張ったじゃないか」
「うん、先生にも褒められたしなあ」

　リハビリノートを励みにしようとするその気持ち、以前とは比較にならない程しっかりして来た文字、そして何より体力が少しずつ戻って来たTの様子を見まして、「こいつ、本当に杖歩行が出来る様になるんじゃないかな？」と希望を持ちました。お医者さんからは一生歩行器でしか歩けない、下手をすると寝たきりになってしまう恐れもある、そう聞かされているTの反撃が始まりました。




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